今の役所を辞めて別の役所に転職したいけど、失敗したくないな…。
こんな方に向けて。
僕は区役所から市役所へ転職した経験を持つ。2017年のことだから、今から8年も前の話だ。
当時「公務員に転職するのは難しいでしょ?」と思っていたし周囲からもそう言われたが、実際のところ「こんなもん?」と感じるくらいあっさりと転職することができた。
その時、公務員から公務員に転職するって意外と穴場?とぼんやり感じたが、8年経過した今では「公務員から公務員に転職するのは難しくないな」と確信するように至った。それはなぜか。理由を解説する。
僕の周りにいた、公務員から公務員への転職を果たした人たち
公務員から公務員に転職する人っているの?
論より証拠で、まずは僕の知り合いで公務員から公務員に転職した人を紹介する。
- 区役所 → 市役所
- 市役所 → 県庁
- 県庁 → 市役所
- 国 → 市役所
- 市役所 → 市役所
- 市役所 → 県庁
- 区役所 → 市役所
- 市役所 → 都庁
大げさでも話を盛っているわけでもなく、本当の話だ。で、僕自身も区役所から市役所に転職した1人だし、なんなら去年僕の妻も区役所から市役所に転職している。
半分以上が、ほぼ準備なしで転職に成功
嘘でも冗談でもなく、ほぼ準備なしで合格した人が半分以上いた。試験勉強も、面接対策も、ほぼなしだ。びっくりするほどサクッと合格し、びっくりするほどサクッと転職を果たした。
僕が転職したのは8年前で、「せっかく手に入れた安定という切符を手放したくないし、キャリアに穴をあけたくない。転職活動するならやるだけやって後悔したい。」と考えていたのでそれなりに勉強もしたし、それなりに面接対策をした記憶がある。学生時代に使った参考書を引っ張り出して休日に勉強していたくらいだ。
しかし、僕の妻を始めとして、僕が知りうる公務員to公務員に成功した知り合いで「ちゃんと対策したよ」っていう人はほぼほぼ知らない。
「スキル面におけるアドバンテージ」と「人手不足」が大きいかなと、僕はにらんでいる。
元公務員の経歴は、間違いなく有利
公務員の経歴は、試験時に圧倒的に有利に働きます。
一度、公務員試験をパスしている
昔に比べればカンタンになったとはいえ「公務員試験」を突破するのは容易ではない。教養・専門試験をあわせて20科目以上の科目をこなす必要がある。
で、公務員の人は一度公務員試験をパスした経験がある。これは最強のアドバンテージだ。
たとえば、
- 勉強するツボがわかっている
- 過去に勉強した記憶が残っている
- 公務員試験に合格するだけの能力がある
と、公務員試験を合格した経験がある方はゼロの人に比べて有利だ。スタートラインが違う。100メートル走で言えば10メートルくらい先からスタートするようなものだ。
試験自体もラクになっている
さらに、最近の傾向だと公務員試験の負担が軽くなっている。
有名な例だと、
です。茅ヶ崎市にいたっては教養・専門試験ともに廃止した。
そして、この流れはおそらく加速する。後ほど詳述するが、公務員の担い手不足が深刻だからだ。
【20240903追記】ペーパー試験はザル?!
知り合いの地方公務員(某K県庁)で、職員採用の担当をしている人に聞いた話だが、
筆記試験の合格率が90%を超えた
とのことだ。私の予想どおりといったらおこがましいが、やはり公務員試験の難易度は年々落ちているようだ。というか、人手不足がいよいよ深刻さを帯びてきたのかもしれない。
県庁の筆記で合格率90%だから、市町村レベルだとほぼスルーの可能性すら予期できる。
元公務員の強みが、そのまま活かせる
公務員の方は、今の仕事をそのまま活かせる。国から県であろうが、県から市であろうが、大差ない。基本的に仕組みは同じなので問題ない。
また、公務員として働いているということは、すでに公務員として必要なスキルや経験を身につけているとみなされる。そのため、転職先の公務員試験では面接官から「採用した直後からすぐに働ける人」と判断されるはずだ。
だから、面接では今の仕事を着実にこなしていることや予算や文書管理と行った庶務系の仕事ができることをアピールすれば喜ばるはず。
実際、僕も福祉の現場でケース対応をしていたことや予算要求の事務をしていたことをアピールした。
【少子高齢化と老朽化】公務員は、人手不足。
物流業界では有名だが、実は公務員も人手不足です。しかも、割と深刻だ。
原因は、少子高齢化と設備の老朽化だ。
- 少子化によって子育て支援への需要が上がっている
- 高齢者数の増加によって年金・介護・医療の需要が上がっている
- インフラの老朽化によって修理の重要が上がっている
少子高齢化とインフラの老朽化によって行政需要が増えており、行政の仕事は増え続けている。
しかし、上記すべての課題に共通するが、どれも効果が出るまでに時間がかかる。加えてお金もかかる。その上、最終的には「人手」が必要な案件だ。
ところが、人口減少(とくに若者の減少)により公務員の担い手が不足している。つまり、需要と供給のバランスが崩壊しつつある。
東京都の採用状況
下記は、東京都のⅠ類B採用方式のデータだ。
令和元年度 | 令和5年度 | |
採用予定者数 | 290人 | 455人 (+165人) |
申込者数 | 3,198人 | 2,122人 (▲1,076人) |
合格者数 | 2,276人 | 1,525人 |
最終合格者数 | 403人 | 626人 |
倍率 | 5.6倍 | 2.4倍 |
見てのとおり、採用数は150人以上増加にも関わらず、申込者数は1,076人減です。
福岡市の採用状況
東京都だけだと説得力がないので、福岡市も見てみる。
令和2年度 | 令和5年度 | |
採用予定者数 | 30人 | 45人 (+15人) |
申込者数 | 1,058人 | 687人 |
受験者数 | 883人 | 639人 (▲約244人) |
最終合格者数 | 33人 | 51人 |
倍率 | 26.8倍 | 12,5倍 |
採用者数は15人アップだが、申込者数は244人マイナスだ。
東京都も福岡市も採用予定数を増やしているのに申込者数は減っている。なぜか。
出生数の推移から読み解く、若者の数
申込者数が減少している原因は、根本的に若者の数が減っているためだ。
「公務員になりたい人が減った」とか「他の職業になりたい人が増えた」というよりも若者の母数自体が減っている。
一応データ(根拠)を見ておく。
(※人口を正しく把握するなら、人口動態を専門に研究する「国立社会保障・人口動態研究所」のデータを見るのがいいです。)
年別の出生数は次のとおり。
- 1990年:122万人
- 2000年:119万人(※今、社会人2年目)
- 2010年:107万人
- 2020年:84万人
年々出生数は減っているのがわかる。
2023年で社会人になる人は2000年代生まれの人だろうから、おそらく110万人くらいだ。
2030年には100万を割り、さらに2040年には80万人を割るだろう。70万人を割る可能性すらある。
一方で、高齢者は増えている
年 | 65歳以上の人口推計 |
2020年 | 3,603万人 |
2043年 | 3,953万人 |
最新のデータだと、65 歳以上人口(高齢者数)のピークは、2043 年の 3,953万人がピークとの推計が出ている。
つまり、この先20年は医療・介護・年金の需要が増え続けることを意味する。
以上をまとめると、
- 申込者数が減った理由:若者が減っている
- 採用予定数が増えている理由:高齢者が増えている
おそらく多くの日本人が直感的に知っている内容だろうが、改めてデータを見るとはっきりとする。
つまり「この先20年くらいは公務員の人手不足は続く」ということだ。人口学の素人の僕でもカンタンに想像がつく未来だ。
個人的には、世帯数の増加も気になる
若者の減少、高齢者の増加も深刻な問題を引き起こす原因だが、個人的には世帯数の増加および世帯人員の減少も気になる。
なぜなら、物理的に人々が孤立化するから。そして、物理的に孤立すると精神的にも孤立するからだ。その上、行政需要が増大するからだ。
- 昔:三世代家族が当たり前
- 今:核家族が当たり前
- 将来:ひとり暮らしが当たり前
たとえば三世代家族だったら、子育ての問題も介護の問題も家族の中である程度解決ができた。困ったときは同居の家族に「よろしく!」と頼めばいいからだ。精神的な負担は軽い。もちろん体力的・金銭的な負担も軽い。
でも、核家族が主流の今は、家族に頼むハードルが高い。同居の妻(夫)は共働きの可能性が高い。お互いの実家も遠方であるかもしれない。ただ、一応同居人がいるのでなんとかなっている感じだ。それでもけっこうキツいはずだ。
ひとり暮らしの増加で、公務員の仕事が増える
ところが、今後ひとり暮らしが多くなればその家族すらも機能しなくなる。家族は子育てや介護の負担から逃れられる一方で、個人の負担は増えている。
人々が単独で暮らせば暮らすほど、福祉にかかる「個人」や「外部」の負担は増えていく。現に僕はかつてケースワーカーをしていたときに一番手を焼いたのが、独居高齢者の支援だった。独居高齢者は共同体から切り離されがちで、家族や地域の手を借りられないからだ。
ひとまず向こう20年はひとり暮らしは増えていくので、公務員の仕事は増えていくだろう。
私の元職場でも、募集しても人が来なかった
私がもと働いていた市役所でも人手不足が問題になっていた。下記を見てほしい。
募集人数 | 申込者数 | 合格者数 | 倍率 | |
---|---|---|---|---|
2023年度 | 15人 | 216人 | 23人 | 5.8倍 |
2020年度 | 15人 | 124人 | 11人 | 11.3倍 |
2012年度 | 25人 | 636人 | 29人 | 16.8倍 |
2012年度は申込者636人で倍率16.8倍、2020年度は申込者124人で倍率11.3倍に。そして、2023年度は申込者216人で倍率5.8倍だ。
「人を募集しても集まらない」と課長がボヤいていた。
最近は先行試験を導入する自治体も増えてきたようだ。
【裏戦略】任期付職員でもいいなら、かなり狙い目
終身雇用・年功序列にこだわらないなら、任期付職員も戦略としてはありだと思う。なぜなら
- 筆記試験はほぼないに等しい
- 1回の面接のみで合格できる
- 任期付きだけど、実際は延長される場合がほとんど
- ぜったいに管理職にならない
- いろんな部署を転々とできる
などメリットが盛り沢山だからだ。
しかし、デメリットもあり
任期付職員にもデメリットがあり、それは
- 福利厚生が薄い(例:育休・産休なし)
- 深い人間関係が築けない
- じゃっかん下に見られる
などなど。なかでも福利厚生に関しては注意が必要だ。これから出産を考えていたり、小さいお子さんがいらっしゃったりする人は産休や育休が制度上ないので、「臨月に突入と同時に退職」みたいな事態になりかねる。
出産・子育てを終了した人や独身の人限定の戦略かもしれない。
任期付職員は、人生の保険になる
ただ、僕は任期付職員に可能性を感じている。
というのも「いざとなったら任期付職員として就職する」という選択肢が人生の保険になりえるからだ。さらに、ライフステージに応じた働き方も可能になる。
「結婚するまではバリバリ働いて、子どもができたら育児に専念、子どもが大きくなったらバリバリ働き、子どもが独立したら仕事をセーブ。」みたいな計画を立てたとき、任期付職員の選択肢は大いに役立つはずだ。
将来的に僕は、任期付職員で働きたいなとも思っている。
最後に【「やらない後悔よりやった後悔」】
今公務員の方は、公務員試験に有利だ。
とくに「地元を離れたけど地元に帰りたい」と思っている方や、「都会から地方都市に転職したい」と思っている方はより有利かと思う。
行政需要が増えているのに人手が不足しているからだ。この流れは今後20年は続くと考えられる。
公務員試験はフェアだと思った
一瞬だけ余談。
僕は民間企業に就職したが、民間企業では書類選考の時点で不合格になり、面接さえしてくれないケースが多かった。つまり、自分をアピールする機会すら恵まれない。
一方公務員は、年齢や学歴など条件さえクリアすれば、誰でも無料で試験を受けることができる。万人に試験の門が開かれている。これってすごく有り難いことだ。民間企業の就活を経験した今だからこそそのありがたみがわかる。
失敗しても、無料。
公務員試験は、すべて無料だ。応募にはいっさいお金がかからない。合格して「やっぱちがう」と思えば辞退もできる。失敗しても、取り返しがつく。つまり、リスクがない。
今、公務員から公務員への転職を迷われている方は、少なくとも試験の難易度や合格率で悩む必要はないと思う。
もっと別の問題で、たとえば仕事のやりがいや自分が思い描くライフスタイルなどで迷われているなら、時間をかけて答えを見つけたほうがいい。ここは短期で勝負しない。
しかし、転職する意思が固まっていて「転職したい!他の仕事をやってみたい!」気持ちがあるなら、申込んでみるといい。今その瞬間に芽生えたあなたの本心を大切にしてほしいな、と僕は思う。
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